【記事・動画公開】NMR(核磁気共鳴装置)への液体ヘリウム補充

【記事・動画公開】NMR(核磁気共鳴装置)への液体ヘリウム補充

名古屋大学物質科学国際研究センター化学測定機器室では、化学分野を専門とする技術職員が、研究支援業務にあたっています。今回はNMR(核磁気共鳴装置)に液体ヘリウムを補充する業務を取材しましたのでご紹介します。

はじめに、化学測定機器室の尾山さんと手伝いにやってきた農学部NMR担当の沢田さんが、二人がかりでキャスター付きヘリウム保存容器(ベッセル)を極低温実験室からセンター3階NMR測定室まで運びます。ベッセルの容量は100リットル。中の液体ヘリウムは十数キログラムですが、頑丈な容器は重く、総重量は100キログラムを超えます。ベッセルが横転してヘリウムが噴き出したり、容器が破損すると危険なので、周囲に注意しながら慎重に運んでいました。

NMRの超電導磁石(マグネット)への影響を避けるために、身に着けている携帯電話や財布などの金属製品を取り出し、装置から離れたところに置いたら、いよいよ作業に取り掛かります。トランスファーチューブ(移送管)、接続部品、皮手袋、ドライヤーなどの道具を揃え、装置制御用PCでNMRの運転を充填モードに移行すると現在のヘリウム残量がPCに表示されます。2ケ月前にほぼ満タンだったものが、蒸発して56%に減っていることが分かりました。液体ヘリウム量のログを見て、増減パターンも確認します。常日頃から量変化に注意を払い、装置の異常や故障をいち早く察知できるよう留意することが大切なのだと担当者が話していました。

NMRのマグネットから放出されるヘリウムガスを回収する配管を充填用の太いものに切り替えた後、液体ヘリウム充填用トランスファーチューブの片方をゆっくりとベッセルに挿入し、チューブのもう一方から液体ヘリウムが滴るほど十分に予冷します。

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He充填_記事photo2

その後、予冷したチューブをマグネットの入り口に挿入します。次に、ベッセルにヘリウムガスラインから供給されるガスを吹き込んでベッセルを加圧し、ゆっくりとマグネットに液体ヘリウムを注入していきます。500 MHzの液体NMR一基の充填に、およそ1時間かかりました。

凍りついた注入配管の入り口をドライヤーで温め、溶けたらマグネットからトランスファーチューブを静かに抜き、注入口を閉め、ヘリウムガスの回収ラインの配管をもとに戻し、NMRの運転を測定モードします。最後に、マグネットのところどころについた氷と霜をドライヤーで溶かしてふき取ったら充填作業が完了です。

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NMRの超伝導磁石の超電導は、液体ヘリウム槽の中で超伝導磁石が極低温に冷却されることで実現しています。マグネット内の温度上昇だけでなく僅かな衝撃や装置の劣化など何らかの原因で超電導が消失すると、熱が発生して液体ヘリウムが爆発的に蒸発・膨張して放出弁から噴き出し非常に危険です。さらに、磁場消失からの復旧は非常に困難で、再調整に莫大な労力と費用がかかります。最悪の場合は、復旧が不可能で装置が使えなくなってしまいます。そのため、超電導磁石の冷却槽に液体ヘリウムを充填する際には、中の温度やガス圧が急激に変化しないよう、物理的な衝撃を与えないよう細心の注意を払って行われます。このような技術支援により、物質研究に欠かすことのできないNMRが常に最高のコンディションに保たれているのです。

スタッフの皆様、お疲れさまでした。

担当スタッフ:(技術職員)尾山公一、沢田義治、山田莉緒、加納真衣

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【記事及び動画作成・問い合わせ先】

 国立大学法人 東海国立大学 統括技術センター
 CFA(生物生体,高度専門技術担当)中西 華代,CFA補佐 松浦 彩夏
 cfa[at]tech.thers.ac.jp ※[at]を@に変えてご使用ください