技術職員インタビュー
07
言語の壁なく技術支援を
Mayumi Nishimura
名古屋大学
技師, CFA
西村 真弓
[ 専門 ]無機分析、熱分析、エックス線光電子分光法、 赤外分光法、ラマン分光法、研究基盤マネジメント、研究支援
■ 経歴
高知県出身。上智大学理工学部卒業、東京工業大学(現・東京科学大学)大学院修士課程修了。学生時代は、主に赤外およびラマン分光光度計を用い、配位化合物の構造解析について研究。現在は、無機分析機器の保守管理や酸試薬を用いた試料の前処理などを担当し、工学系をはじめとする幅広い分野の研究者・学生を支援している。また、技術職員向け英語研修「技術英語研修WG(ワーキンググループ)」のメンバーとして、学外関係者とも連携し、技術職員の国際化推進にも取り組んでいる。
技術英語の必要性と取り組む情熱
——— 西村さんは、技術職員向けの技術英語研修WG(ワーキンググループ)の立ち上げメンバーなのですか。
はい、そうです。入職当時、担当する分析装置について英語での問い合わせが多く、思っていたよりもたくさんの外国籍の研究者や留学生の方が装置を利用していることを知りました。そこで、学内職員向けのあらゆる英語研修を受けてみたのですが、それらの研修では、技術職員が現場で使うような英語をあまり学べないということがわかりました。「事務作業で扱う英語よりも、技術職員がユーザー対応中に迷いそうな単語の使い分けや多様な表現が学べる方が良い。」そう考え、分子・物質合成プラットフォーム*が主催した技術英語研修に参加しました。ここでやっと、学外には実践的な技術英語を学ぶための研修があることを知りました。研修に継続的に参加しているとおのずと他大学の技術職員の方々と交流する機会が増えます。以降、コロナ禍でも引き続きオンラインを活用して学内外の方と意見交換をしつつ勉強会を続けました。
技術英語研修WG立ち上げのお話を耳にしたのは、その後(令和2年頃)です。自身の新たなステップとして、研修を企画運営してみたいと考えるようになり、立ち上げメンバーに加わることを決めました。
*分子・物質合成プラットフォーム…研究環境の整備を目的に文部科学省が推進したナノテクノロジープラットフォーム事業の1つ。分子科学研究所(分子研)が代表機関として参画した。
——— 上述のWG以外に、学内技術職員向けの英語研修プログラムを立ち上げられたこともありますよね。
はい。分子研で開催された技術英語研修の帰り道、一緒に参加していた方に「大学でも同じような企画があるといいのに」と話すと、学内で公募している技術研鑚プログラムに申請してみてはどうかと助言をいただきまして。企画申請書なんて書いたことがありませんでしたが、助言くださった方にも添削をお願いして申請すると、無事採択していただけたんです。ちなみに、助言と添削をしてくださったのは他でもない、高濱CFAです。
——— 西村さんの英語研修に期待することや強い思いなどあれば教えてください。
英語でのコミュニケーション能力向上はもちろんですが、技術職員として英語で対応することが、結果的に研究者の時間確保につながればよいなと考えています。例えば留学生に装置の使用方法を伝える場面で、私が日本語でしか対応できないと、現場では日本語と他言語両方を扱える他の研究者や指導教員に仲介してもらわなければなりません。ただでさえ、研究者は研究以外の業務が多いと言われていますから、なるべく、負担を減らせるような支援につながれば、と。
一方で、いくら研修に参加しても、他言語の習得に一番必要なのは本人の努力だとも感じています。「研究支援への思いはあるけど英語対応力が不安」「もう少し英語を頑張りたいけど、一人きりだとつい後回しにしてしまう」という方に対して、私自身の「同じような思いを持つ仲間と一緒なら、切磋琢磨しながら取り組めるのではないか」という気持ちを込めて、研修内容を提案しています。
技術職員×外国語コミュニケーションで一層の技術支援を
——— 西村さんは、普段は分析系職員として装置の維持管理やユーザー対応も担当されていますよね。
はい。コアファシリティの重点運用機器であるX線光電子分光装置(XPS)や誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)、そして前処理装置としてマイクロ波試料前処理装置(ETHOS UP)などをもう1名の技術職員と二人三脚で担当しています。なかでもXPSは、大変人気のある分析装置で、工学部をはじめ、理学部や農学部の教員・学生にも広く利用されています。また、日本語に慣れていない留学生の方の利用も多くあります。
——— 業務の中で、技術英語が役に立ったと感じた瞬間、あるいは取り組んでいてよかったと感じた瞬間はありますか?
入職当時は、電話応対の際に身構えてしまうことを想定し、あらかじめ受け答えの例文を英語で用意していた時期もありました。しかし現在では、特に構えることなく自然に対応できるようになったと思います。
また、現場でユーザーの方に装置の使い方や特性を説明する際には、最初に「日本語と英語、どちらがよいですか」と確認し、希望に合わせられるようになりました。さらに、装置の不具合が発生し、海外のメーカー本社の技術者に相談する必要がある場合なども含め、日々のやり取りの中で、技術英語研修で学んだことが活きていると実感しています。






——— 具体的には、どのようなやり取りでそう感じられたのでしょうか?
まず、相手の言いたいことを「なんとなく」ではなく、きちんと聞き取れるようになったと感じています。また、自分自身の言いたいことも、自分の言葉で伝えられるようになりました。文法や正確な発音にとらわれ過ぎると、間違った英語を話すことが恥ずかしく感じられたり、声が小さくなってしまったりして、うまくコミュニケーションがとれません。私たちの企画した研修では最初に「完璧な英語を話す必要はない。文法の間違いは些細なことで、それよりも相手とやり取りをしながら、自分の思いを伝えることが大切」と学びます。ただし、単語を間違えてしまうと、自分が意図していないイメージで相手に伝わることもあるため、相手がきちんと理解できているかを確認しながら進めることも重要です。現在は、目の前の相手とコミュニケーションをとるための1つのツールとして、英語を活用できるようになってきました。その点でも、研修に企画段階から関わってきてよかったです。
関わったユーザーから気持ちを込めて「親切にしてくれてありがとう」と言われると、「技術英語に力を入れてきてよかった」と胸が熱くなり少しでも役に立てていることにほっとします。特に、留学生の方からのメッセージは日本人よりもストレートな表現が多く、ときにはお礼の言葉だけでなく、一時帰国の際に祖国のお菓子をたくさんお土産に持ってきてくれたり、突然ペットボトル飲料を差し入れてくれたりすることもあります。そのように心遣いをわかりやすく示してくれることが嬉しいし、ありがたいです。そして、自分の対応が利用者の理解につながっているのであれば、技術支援者としてこれほど光栄なことはありません。
言語の壁を越え、さらなる技術支援を目指す
———まだやり切れていないこと、挑戦したいことがあれば教えてください。
担当している分析装置の講習は、日本語と英語のどちらでもスムーズに行えるようにしたいです。長く担当している装置については、原理や使い方の簡単な説明、質問に答える際に使用する英単語などがある程度定型化されており、留学生の方とのコミュニケーションも概ねスムーズに行えています。一方で、XPSやETHOSのような新しい装置については、まだ試行錯誤の段階です。自分の英語での説明に、ユーザーの方があまり納得していないように感じられる場面もあり、「自分の表現が分かりにくかったのか」「使用した単語が適切ではなかったのか」と迷うこともあります。分析に関する質問に対して曖昧な回答はできないため、担当装置に関する英語表現については今後も継続して学んでいくつもりです。言葉の壁によってユーザーが誤解することなく、快適に装置を利用していただくことができるようなコミュニケーションを心がけ、伝える情報量に差が生じないよう、英語対応の信頼性を高めていきたいです。
[本記事内容は2025年度に取材したものです]