ユーザーインタビュー03

User

Interview

安心・安全な研究と教育の拠点として
技術職員とともに進化を目指す

名古屋大学アイソトープ総合センター

柴田 理尋 センター長・教授

ラジオアイソトープ(RI)の活用メリットとは

私たちの身の回りに存在するさまざまな元素のうち、原子核における陽子の数が同じでありながら中性子の数が異なるものを「同位体」といいます。この中でも、放射線を出す性質(放射能)を有している元素が「放射性同位元素」、すなわち「ラジオアイソトープ(RI)」です。
RIが出すβ線やα線、γ線といった目に見えない放射線は、理工学、生命理学、医学など幅広い分野の研究で使われてきました。例えば、RI で標識した化合物を生き物に投与すると、外部から放射線の出ている位置を追跡することで体内での化合物の働きを調べることが可能になります。他の測定手法よりも微小な量で検出できることは、RI を研究に使用する大きなメリットだといえます。
最近は、当センターでは、植物内の物質の動態を調べる研究が増えていますが、こういった研究にRI を用いることで「どのような栄養素が、どういったタイミングで、どこに蓄えられるのか」が分かります。将来的には、「肥料をやるタイミングはいつがいいのか」「どのような肥料が成長に効果的なのか」といったことが分かるまでに発展していくでしょう。

適切な管理のもとで提供する研究支援と教育

アイソトープ総合センターでは、名古屋大学内でのRIや放射線の研究・教育において、共同利用施設として有効活用していただけるよう、最新の設備機器や高レベルのアイソトープ取扱実験室などを整備しています。学内外の研究者および学生に安心・安全に利用いただくため、施設や設備を維持・管理していくのが大きな役割の一つです。また、RI を有効活用した実験手法や放射線の測定法、放射性廃棄物の処理法などについて、新しい技術の研究や開発を進めることによる研究支援も行っています。
そして、もう一つの大きな役割は、利用者の教育訓練や放射線安全管理の実施です。RI や放射線は非常に便利で優れたものですが、扱い方を誤ると放射線被ばくによる健康上の被害や、RI による汚染といった環境への悪影響をおよぼす危険性を有しています。そういったリスクを理解したうえで、恐れや不安なくRI や放射線を使っていただくために、利用者には適切な使用法を身に付けていただかなくてはなりません。日本では特に、過去の原子力災害などをきっかけとしてRI への法的な規制が強くなっていることからも、全学の施設として法令に即した適切な管理を行い、安全な教育や研究に貢献していくことが求められています。

研究の支援・安全管理を担う技術職員への信頼

アイソトープ総合センターの第一種放射線取扱主任者の資格を持つ教員や技術職員の方々には、非常に重い責任のもとで研究支援や安全管理業務を行っていただいています。中でも、技術職員の方が担う放射線安全管理は、主に放射性物質の管理・放射線業務従事者の管理・放射線施設や機器の維持管理という3つの柱からなります。
例えば、放射性物質の管理においては、許可151核種のうち保有する種類や数量、各実験室が使用している数量などを常に把握する必要があります。放射線業務従事者の管理では、教育訓練の一部を担当しています。そして、放射性物質の取扱資格や必要な健診の受診有無の確認、放射性物質の取扱数量や施設の滞在時間からの被ばく線量の算定、測定機器の精度の維持、利用者からの相談の対応と機器の使用法の説明や不具合対応と、その業務内容は極めて多岐に渡ります。知識と技術で、施設と利用者を守る技術職員の存在はなくてはならないもので、センターの安全な管理・運営を安心して任せられる重要なパートナーです。アイソトープ総合センターに限らず、大学内の教育や研究支援の現場が、多くの技術職員に支えられていることを実感しています。

学内外を問わずユーザーの拡大を目指して

これまで幅広い学問分野の研究に活用されてきたRI ですが、代替手法が発見されたことをきっかけに、その需要は年々減少しています。だからこそ、現在もRI を活用している方には、より安全な環境で適切に大いに使っていただきたいという思いがあります。このアイソトープ総合センターRI実験棟は、名古屋大学がRI を扱う研究・教育の機能を一つの施設に集約させようと、いち早く取り組み実現した施設です。今後は、大学内の研究者や学生はもちろんのこと、近隣の大学など外部の方々にも有効活用いただけるよう、施設の維持・管理を続けていきます。
そして、当センターが他大学にも開かれた施設になるということは、利用者の幅が広がるということであり、技術職員の方々には、多様なコミュニティやネットワークを活用して情報収集し、様々なユーザーとその目的に柔軟に対応していっていただくことを期待しています。
技術職員の協力のもと、名古屋大学ならではの特色ある施設を、長年安全に管理してきたという自負を大切に、より多くの方に利用いただける研究拠点を目指していきます。

Technical Staff

環境安全技術支援室

近藤 真理 技師(第1種放射線取扱主任者)

「放射線=危険なもの」というイメージを持たれている方も多いですし、利用にあたっての手続きが煩雑であることも事実です。だからこそ、「アイソトープ総合センターに聞けば、放射線利用における助言が得られるのではないか、問題を解決できるのではないか」と信頼していただけるような支援を今後も行っていきたいと思っています。そのために、常に最新の放射線管理に関連する知識や技術を身に付け、得た情報を利用者の方に正確にお伝えできるよう、日々研鑽を積んでいきたいです。

環境安全技術支援室

柿内 智樹 技術職員

2023 年から名古屋大学に着任し、アイソトープ総合センターの業務を一つずつ学んでいる段階です。着任直後は、放射性物質の管理のみならず、施設や機器の維持・管理なども担うという技術職員の多岐にわたる業務内容に驚き、「自分にできるだろうか」と不安に思うことも。しかし、教員の方々や先輩方に丁寧に指導していただき、現在は放射線取扱主任者の資格を取ることを目標として日々励んでいます。そして将来的には、近藤さんの後を引き継げる技術職員になりたいと思っています。

本記事は名古屋大学全学技術センターの協力により2023年度に作成されました。