ユーザーインタビュー02

User

Interview

全学無線LAN(NUWNET)の進化は
技術職員の自己研鑽に支えられています

名古屋大学情報基盤センター
情報ネットワーク研究部門

嶋田 創 准教授

教員と技術職員で意見を出し合い整備

名古屋大学の全学的なキャンパス情報ネットワーク「NICE」の一部として提供されている、全学無線LAN「NUWNET」。NUWNETを使えば、講義室や会議室、食堂など、キャンパス内のどこからでもインターネットに接続し、学業や研究に必要な情報を手にすることができます。
我々が現在のNUWNETの導入に動き始めたのは2009年頃です。当時といえば、ノートパソコンに無線LANアダプタが搭載されることが一般的となり、また、スマートフォンやタブレット端末が普及しはじめた頃でもあります。学内でも徐々に会議や講義でネットワークを使う機会が増え、今後さらに無線LANの需要が高まることが見込まれました。これを受け、本学では情報基盤センターの教員らが中心となってNUWNETプロジェクトを立ち上げました。

2010年の導入時点では、NUWNETの使える建物は限られていましたが、整備箇所においては、LANケーブルに縛られないネットワーク利用が可能となりました。その後も、ユーザの扱う情報量や通信セッション数の増加といった課題に対応しながら,徐々に使えるエリアを拡大していきました。その結果、導入時には933台だったアクセスポイントは、2021年度末には2倍強の2,159台に増加し、これ以外にも、附属学校や附属病院の無線LANシステムの数百台のアクセスポイントにおいてもNUWNETを相乗りさせて利用できる状態となりました。現在では、学内のほぼすべての場所において、快適な速度で無線通信することが可能となっています。

実用性とセキュリティを高める技術職員の創意工夫

NUWNET導入以前の学内での無線LAN利用は、名古屋大学では部局や研究室が個々にアクセスポイントを導入している状況で、それぞれを利用できるのは各部局や研究室に所属する人達のみでした。プロジェクトの第一歩は、それらの代わりに、キャンパスのいずれの場所でも同じIDとパスワードで使える無線ネットワーク環境を大学として提供することでしたが、本整備を進めていく際には技術職員の協力が不可欠でした。

広大なキャンパス内に多数の無線LANアクセスポイントを設置するには、同時にバックボーンの整備も考えなければなりません。具体的には、接続時の認証を担うサーバや、通信経路に置かれたネットワーク機器の増強です。その他、セキュリティ面を考慮したUTM機器の導入といったことも必要となってきます。このように、全学的な無線ネットワークの整備には、多岐に渡る計画・作業が必要となります。このような壮大なプロジェクトを進めるためには学内ネットワーク・インフラストラクチャの細かい部分まで把握している人材が必要となりますが、そのような存在がまさしく「技術職員」でした。
また、利用者の増加に伴い懸念されるセキュリティ面の強化にも、技術職員の知見が大いに役立ちました。NUWNETにおいては、IEEE802.1X規格での認証に加えWebブラウザを通じた認証も提供していますが、大学では多くの個人情報や教育・研究に関する情報を扱うため、本学構成員とゲストユーザで異なる接続先を用意する等、セキュリティ面に配慮した設計がなされています。

2010年代後半になると、NUWNETの環境下でHD動画がストレスなく見られるまでになりましたが、一方でまだまだ「通信が遅い」という声が寄せられることもしばしばありました。そのため、ユーザ環境において「実際に何Mbps出ていたのか」という定量的な情報を計測する手段が望まれましたが、そんな折、技術職員が「利用者向け無線LAN通信速度報告システム」と「無線LAN長期観測端末」導入の提案をしてくれました。
「利用者向け無線LAN通信速度報告システム」は、デバイスと連動したシステム開発で高い技術力を持つ岩瀬技師が主導となって進めてくれました。はじめは、通信速度を計測する一般のスピードテストサイトの結果をユーザがスクリーンショットし、それをこちらに送るという方式を考えましたが、1枚ずつ画像を確認して記録するというのは非効率的であったため、外部サイトに頼らない独自のシステムを開発することに決めました。開発期間はおよそ1年だったかと思います。完成した独自のスピードテストサイトでは、私が望んだとおり、ユーザがわざわざ情報を送らずとも近くのアクセスポイントから通信速度や接続場所が自動的に送信されるようになっていました。おかげさまで,定期的に学内でスピードテストへの協力を呼びかけ、その結果をアクセスポイントの整備に役立てることができるようになりました。

「無線LAN長期観測端末」は、このシステムと同様に通信状況を調べるためのものですが、こちらはユーザが使うためのものではなく、我々が設置し、その場所での通信状態を長期的に調べるためのものになります。岩瀬技師考案の本センサはシングルボードコンピュータの「Raspberry Pi」を用いて作られているため、狭いスペースであっても設置することが可能です。取り扱いも簡単で、電源コンセントに挿すだけで自動的に観測を開始でき、NUWNET経由でデータ収集まで行うことができます。現在は「接続しにくい」との情報が寄せられた場所に本センサを設置し、接続状況の調査に活用しています。

イレギュラーな対応や故障を短時間で解決する機動力

NUWNETの保守・運用においては、技術職員の知識と経験だけでなく、機動力も非常に頼りにしています。2010年以降、アクセスポイント数は右肩上がりに上昇しており、2019年度には約300台を増設した上、老朽化アクセスポイント約500台の置き換えを行いました。さらに、2021年度には利用エリアを拡充すべく、再度大規模な整備を実施しました。これら2回にわたる大規模整備に際しては、川瀬副技師を中心として、広大なキャンパス内をくまなく歩き回りながら利用実態と設置の妥当性を調査しました。
また、学会やイベントに際しては、依頼を受けて臨時アクセスポイントを設置することがありますが、そういった際にも、技術職員に動いてもらっています。整備時に限らず、ネットワークトラブルの発生時においても技術職員の方々の機動性というものが重要になります。多数のアクセスポイントと膨大な数の情報コンセントの裏では、おおよそ各フロアに1台存在し全学では1000台にもなる多数のネットワーク機器が稼働していますが、この台数となると毎月1回は故障が発生し,動きを止める物が出て来ます。もちろん動きを止めればそのフロアではネットワークが使えなくなるわけですから、迅速な対応が必要となります。そういった際に、即座に予備のネットワーク機器に設定を入れ、交換に走ってくれるのが技術職員です。最近では機器も良くなったのか故障も少なくなりましたが、多いときは年間50台も壊れ、交換に走っていただきました。

自己研鑽による「先回り」で満足度を向上する

IT環境が日々進化するなか、技術職員の方々は実務の忙しい合間を縫って最新の情報を仕入れたり、技術を磨いたりとアップデートに余念がありません。学会で論文の発表をされることもあり、研究熱心な姿が印象的です。教員側が提案した意見に対しても、常に「先回り」でアップデートされた知識と技術を生かして的確に判断してくれます。
最近の事例では、2022年4月に新型コロナウイルスの緩和により講義の開始が重なり、想定以上の端末がNUWNETに接続されて過負荷となったことがありました。その際も早急に原因を究明し、短時間で予備機材を用いた負荷分散の提案と実装をしてもらいました。技術職員の日々の自己研鑽と、積み重ねてきた実績があって、今日のユーザ満足度に繋がっていると言えるでしょう。

さて、NUWNETが次に目指すのは、「自分の研究室のローカルネットワークに接続しているのと同じ感覚で使える」ことです。多くの研究室では、むやみに情報機器を外部ネットワークからアクセスされないようにローカルネットワークが設定している所が多くあり、NUWNETを含む学内ネットワークからさっと研究機器にアクセスできません。近い将来、NUWNETに繋げば接続者の所属データを見てローカルネットワークに接続され、研究室以外の場所でも研究機器の操作や研究内容の閲覧できるよう、セキュリティ面の強化や新たな機材を導入して整えていきたいと考えます。加えて、屋外でも手軽に接続できるようになれば、より実用的なネットワークへ成長していくはず。決して夢で終わる話ではないので、技術職員と連携しながら形にしていければと考えています。

本インタビューの全学無線LAN NUWNET整備に関連して、岩瀬技師が筆頭著者兼発表者、川瀬副技師、石原技師が共著者として大学ICT推進協議会2022年年次大会で発表した論文「学内向けWi-Fi環境観測システムの構築」が、最優秀論文賞を受賞しました。

大学ICT推進協議会 「2022年度年次大会論文賞等が決定しました」
https://axies.jp/news/5102/

Technical Staff

情報通信技術支援室

岩瀬 雄祐 技師・博士(情報科学)

「無線LAN長期観測端末」の開発にあたって、半導体不足でRaspberry Piの入手が困難だったことが思い出されます。今後もニーズに寄り添い、NUWNETがさらに有用性の高いネットワークへ成長できるよう、システムや機器の改良をしていくとともに、私自身も新たな技術を習得してバージョンアップを重ねていきたいです。

情報通信技術支援室

石原 正也 技師

2010年からNUWNETのプロジェクトに携わっていますが、導入当初は無線LANが繋がればいいかなというレベルでした。

それが今や、絶対に繋がっていないといけない重要なインフラになっています。現在は建物を中心に無線LANの整備を行っていますが、今後は屋外など利用可能エリアを拡大していきたいです。

情報通信技術支援室

川瀬 友貴 副技師

NUWNETの整備では、日程調整に苦労した思い出があります。部屋ごとに細かく管理者の分かれた大学においては、多数の講義室・会議室を対象とした工事日程を組むのはなかなかに骨の折れる作業でした。

さて、今や当たり前となったNUWNETも、時が経てばまったく新しいもので置換されているかも知れません。そうなったとしても、私はその時々にできることに心血を注いでいることでしょう。

本記事は名古屋大学全学技術センターの協力により2022年度に作成されました。