本多 陸、酒向 隆司

技術職員インタビュー

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教育・研究・地域に貢献する
農学系技術のスペシャリスト

Riku Honda & Ryuji Sako

岐阜大学

技術職員

本多 陸

[ 専門 ] 農学、畜産学、酪農、食品加工、実習支援、実験研究支援

■ 経歴

愛知県出身。岐阜大学応用生物科学部を卒業したのち、20194月に岐阜大学岐阜フィールド科学教育研究センターに技術職員として入職。20204月より岐阜大学全学技術センターフィールド科学技術支援室に所属。岐阜大学柳戸キャンパス内にある柳戸農場で動物部門を担当しており、先輩職員とともに乳牛の搾乳や衛生面などの飼養管理に従事。また、学生実習の指導役として学生たちのサポートにも励んでいる。現在、統括技術センターフィールド技術支援室に所属。

岐阜大学

主任技師 フィールド技術支援室長​

酒向 隆司

[ 専門 ] フィールド科学、畜産学、酪農、実習支援、教育支援

■ 経歴

岐阜県出身。弘前大学農学部を卒業したのち、酪農関係の民間会社に4年間勤務。退職後は、東京大学の附属牧場で技術職員として約7年半従事。2006年より岐阜大学へ。最初の3年間は美濃加茂農場でウシの管理、その後は現在も勤務している柳戸農場に異動。2021年4月に岐阜大学全学技術センターフィールド科学技術支援室の主任技師兼室長補佐に就任し、主に採卵鶏の飼育管理や防疫関係の事務処理、支援室のマネジメント業務を担当している。現在、統括技術センターフィールド技術支援室長を兼務。

偶然が重なり技術職員の道を志すことに

──技術職員に就かれるまでの経緯と、なぜこの道を選ばれたのかをお聞かせください。

本多:岐阜大学応用生物科学部では1年生の間、農場で実習をします。私も学生時代に実習に参加して、技術職員が様々な手助けをする姿を間近に見てきました。また農場内で活動しているサークルにも所属。入学するまでは農作業が未経験だったため、実習やサークル活動のときに技術職員に支えていただいた思い出が、学生生活の中で色濃く残っています。
そんな経験も相まって、卒業後の進路を考える際に、現場に出て学生の教育支援ができる技術職員を志すようになりました。ちょうど大学を卒業する年に、名古屋大学と統合する前の「岐阜フィールド科学教育研究センター」で技術職員の募集があったため応募。技術職員は毎年採用があるわけではないので、運よく応募できてよかったと思っています。

酒向:私は大学卒業後、酪農関係の民間会社に就職しました。そこでは、牛乳工場でパックに充填する機械のオペレーターを担当。4年ほど勤めていましたが、農業の政策に携わるような仕事がしたいと思い転職を決意しました。当初は農林水産省や県の農政局を志望しており、技術職員になろうとは考えていませんでした。しかし転職活動中に、東京大学の附属牧場で働かないかと声をかけていただき技術職員の道へ踏み出すことに。牧場では、実験を目的に飼育されているシバヤギの飼養管理や実験補助を行っていました。営利目的ではなく研究や実験のために動物を飼育するほうが、私自身に合っていると感じましたね。

技術職員の仕事も、一般企業と同様に異動希望調査が毎年あります。東京大学での経験にやりがいを感じていたのですが、故郷である岐阜で地元に貢献したいとの希望が膨らみ、毎年異動希望を提出していました。その夢が叶い、2006年から岐阜大学で働くことになったのです。

動物と学生の身近な存在としてのやりがい

──現在、フィールド科学技術支援室で従事されている業務内容を教えてください。

本多:フィールド科学技術支援室は動物部門、植物部門、森林部門の3部門構成。私は、動物部門で、乳牛の飼養管理を担当しています。日常的な業務は、搾乳やウシの生活場所の衛生管理。また生乳や鶏卵など、畜産物の生産や販売にも携わっています。基本的には先輩職員と一緒に業務を行っていますが、先輩が防疫関係の事務処理などで忙しいときは一人で世話をすることも少なくありません。学生たちが実習に来る際は、搾乳作業のサポートなども行います。学生一人につき1頭以上、搾乳しなければならないため、アドバイスをしたり、落ち着かないウシを押さえたりして作業をしやすくしています。

酒向:私も本多君と同じ動物部門に所属し、主に、家畜の飼養管理や防疫関係の事務処理にあたっています。ほかに2名の職員が同じ役割で、私は養鶏の検査や管理が主業務です。名古屋大学と岐阜大学が法人統合した翌年の2021年4月より、主任技師、室長補佐という立場になりました。統合前もマネジメント業務を並行していましたが、東海国立大学機構になってからは、大学にいる全技術職員や機構の動きなど、大局的な視点を持つことが求められるようになっています。さまざまな分野の支援室が集まる全学技術センター全体の将来像なども考えるようになりましたね。

──やりがいや難しさを感じるのは、どのようなときですか。

本多:実習を終えたあとに学生からレポートで感想が返ってくるのですが、彼らの理解の手助けになったときはうれしいですね。それを感じるためには、私自身がしっかりと彼らの「学びの内容」を理解しなければなりません。ただ知識を深めるのではなく、技術職員ならではの専門性を高めなくてはと思っています。

酒向:確かにそうですね。実習は、“座学と実技の融合”です。学問としての学びを、フィールドにどう落とし込んでいくか考えるのが我々の役目。座学だけではわからないことを実際に現場で体験してもらい、将来に役立ててもらいたい。そこが難しさでもあり、やりがいでもありますね。

実体験を積み重ね、技術職員の“厚み”をつくる

──大学生への教育支援をはじめ、家畜の飼養管理など
  多岐にわたる業務を担っていますが、働く環境や技術職員同士の関係性はいかがですか。

本多:入職してから数年は経つものの、作業中はまだまだわからないことばかり。先輩方に疑問点を尋ねにいくと、その作業のやり方をパターン別に教えてくださいます。現場の場合、一つの作業に対しての解決策が一つだけとは限りません。1回の質問で、いろいろな状況に対応できる知識を得ることができるので非常に心強いですね。
ある日、私が管理しているウシの1頭が起立不能になってしまったことがありました。その際はチェーンブロックを使用してウシを吊り上げなければならないのですが、チェーンブロックを取り付ける梁が牛舎にはなかったのです。そこで、単管パイプで小屋をつくっている先輩に簡単な櫓のつくり方を教えていただくことに。さっそく、一人で櫓の組み立てを開始。幸いにも牛舎にはパイプを固定できる柵がたくさんあったので、安全かつ簡単に櫓を組むことができました。無事に治療を終えて、ホッとしたのを覚えています。
やはり実体験を積み重ねていくことが、技術職員の“厚み”をつくるのだと思いましたね。入職後、さまざまな課題に直面していくと同時に“厚み”の大切さもより実感しています。

酒向:私が新人職員だった時代は、先輩の背中を見て覚える時代。基本的に、先輩が直接教えてくれることはほとんどありませんでした。本多君の話を聞いて、若手の職員も成長しやすい環境になったのだと感じます。
現在、私は主任技師として直接若手に手取り足取り教えるという形ではなく、まずは先輩技師に入ってもらい、それでも解決しないときに自分がフォローするようにしています。若手職員に対して常に思っているのは、「自身の好きなことを、好きなようにやってみてほしい」ということ。相談を受けたときには否定的な言葉は使わず、「まずはやってみよう」と自主性を促すよう心がけています。若いうちはトライアンドエラーでいいのではないかと。エラーであってもいずれ自分の糧になるはずなので、新たなことに貪欲に挑戦していってほしいですね。

両大学の特長を生かした取り組みを図る

──技術を高めるために日々取り組んでいることを教えてください。

本多:時間ができたときは、日々の業務で気になったことを調べています。先輩方から話を聞いたときや、大学の先生と話したときに出てきた単語はできるだけ記録し、後日調べた内容を自主的につけている日誌にメモして、すぐに見返せるようにしています。たとえば最近は、「堆肥のつくり方」について調べました。堆肥を土にまぜると、ふかふかとしたウシにとって居心地のよい場所になります。当農場でも実践できないかと、調べながら挑戦しているところです。

酒向:彼の強みは、何事にも真面目に取り組んでくれるところ。依頼した課題に対して、即座に取りかかってくれる実行力もあります。今後は若手の技術職員も入職してくる予定なので、先輩としての振る舞い方や、彼が培ってきた経験をどのように後輩に伝えてくれるのかに期待しています。

──ふたつの大学が法人統合されたことによって、今後期待できるシナジー効果や理想の未来像は
  どのようなものが考えられますか。

酒向:東海国立大学機構の発足を切っ掛けとして岐阜大学から名古屋大学の附属農場を訪問したり、逆に名古屋大学から我々の農場に来てもらったりするような取り組みを始め、現在技術職員間の交流を深めるように努めています。今後さらに交流を活性化させていく中で、様々な新しい教育・研究支援のアイデアが生まれていくものだと思います。
名古屋大学はノーベル賞受賞者を多く輩出している先端研究に特化した大学。一方で岐阜大学は、地域との融和や地域貢献を大切にしている大学です。互いの特長をうまく組み合わせた活動をすることによって、先端研究を地域の課題解決につなげるのが理想ですね。

本多:岐阜大学の先生や技術職員が専門分野について「最先端の研究内容が知りたい」となれば、名古屋大学へ依頼して研究しに行く、または研究してもらった結果を共有していただく。さらには名古屋大学の研究内容をもとに、岐阜大学が実験を行うといったことも考えられます。こうした相互に協力し合うことで、やがてシナジー効果が得られるのではないでしょうか。
今後は東海国立大学機構の技術職員として、私自身も教育サポート一辺倒ではなく、研究支援も担えるような人材になれるよう努めていくつもりです。

[本記事内容は2022年度に取材したものです]